調査・研究
東京都公立大学法人TMUサステナブル研究推進機構 研究一覧
研究課題名 | 所 属 | 教員名 | 職位 | 動画概要 |
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高エントロピー効果に着目したエネルギー関連材料の開発 | 理学研究科 物理学専攻 |
水口 佳一 | 准教授 | 動画 |
ポリメラーゼεのゲノム維持における機能解明とがん治療法開発への展開 | 理学研究科 化学専攻 |
廣田 耕志 | 教授 | 動画 |
CO₂の直接大気回収DACに向けた研究 | 都市環境科学研究科 環境応用化学域 |
山登 正文 | 准教授 | 動画 |
超低周波音観測を用いた津波及び海面上昇の早期検知網の実装 | システムデザイン研究科 電子情報システム工学域 |
大久保 寛 | 准教授 | |
革新的プログラム医療機器(SaMD)による長寿健康社会の実現 関節外科手術・リハビリテーションの支援技術 |
システムデザイン研究科 機械システム工学域 |
藤江 裕道 | 教授 | 動画 |
フレキシブル太陽電池の健全性確保による脱炭素化・減災の推進 | システムデザイン研究科 機械システム工学域 |
若山 修一 | 教授 | 動画 |
振動誘起循環流による未来創生 海洋発電と臓器再生と食料培養 | システムデザイン研究科 機械システム工学域 |
小原 弘道 | 准教授 | 動画 |
細胞共培養血管モデルの開発と血管障害予防法の探索 | システムデザイン研究科 機械システム工学域 |
坂元 尚哉 | 准教授 | 動画 |
ユニバーサルなESG情報開示内容の検証と企業における活用 | 経営学研究科 経営学専攻 |
松田 千恵子 浅野 敬志 北川 哲雄 |
教授 |
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グリーンボンドのインパクト評価の検証 |
経営学研究科 |
松田 千恵子 |
教授 教授 特任教授 |
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隅田川の沿岸整備による訪問者や周辺居住者への効果に関する定量的分析 |
都市環境科学研究科 |
伊藤史子 |
教授 |
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東京都の自殺対策に向けた研究 |
人間健康科学研究科 |
塩路理恵子 |
教授 |
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水道施設における未利用熱エネルギー回収に向けた高性能熱電変換モジュールの提案 |
理学研究科 |
山下愛智 |
助教 |
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外国人コミュニティの発掘と安全安心に関する意識調査 | 国際センター | 岡村郁子 | 教授 | |
共生社会実現に向けた支え合いに関わる意識調査 | 人間健康科学研究科 作業療法科学域 |
宮本礼子 | 准教授 | |
感染症罹患を検知するシステムの開発及び適切な運用に関する研究 | システムデザイン研究科 電子情報システム工学域 |
松井岳巳 | 教授 |
研究概要一覧
高エントロピー効果に着目したエネルギー関連材料の開発
理学研究科物理学専攻 准教授 水口 佳一
- 概要
エネルギー問題は人類が解決すべき重要課題であり、そのための新技術や新材料の開発が急務である。具体的には、エネルギー有効活用およびエネルギー創出における技術進展が重要であり、本研究では新たな熱電材料(熱を電気に変換する材料)と超伝導材料(強磁場磁石の材料)の開発を行う。従来の材料開発と異なる点として、本研究では多元素の固溶(結晶サイトに多元素を混合)で生じる高エントロピー効果(HEA効果)に着目する。本プロジェクト関係者らは最近、熱電材料や超伝導体をHEA化することに成功し、世界に先駆けて特許出願を行ってきた。熱電材料にHEA効果を導入すると、熱伝導率の大幅な抑制や中低温域での特性向上が期待でき、小型モジュールの開発が可能となる。廃熱エネルギー回収のみならず、 IoTデバイスの自立型電源としても応用が期待される。超伝導材料研究のターゲットは、次世代発電技術である核融合炉の強磁場超伝導材料である。核融合炉では大量の中性子が発生するため、中性子線耐性を持った材料が利用される。HEA効果により中性子線耐性を持った超伝導材料を開発する。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標7[エネルギー]、目標9[インフラ、産業、イノベーション]
ポリメラーゼεのゲノム維持における機能解明とがん治療法開発への展開
理学研究科化学専攻 教授 廣田 耕志
- 概要
日本国民の2人に1人は生涯に1度以上ガンに罹り、3人に1人はガンで死亡する。特に乳がん、子宮頸がん、および白血病などの子育て世代に頻発するガンに対する有効な治療法は希求されている。本研究では、本プロジェクト関係者が2019-2021年度に学長裁量経費「国際研究環」の支援のもと実施した国際共同研究(イギリスレスター大学やイタリアIFOM研究所との研究)による成果を発展させ、BRCA1変異による家族性乳がん/子宮頸がんと、悪性リンパ腫(白血病)を治療する新しい方法を考案する。これまでの共同研究で、複製ポリメラーゼε(イプシロン)のゲノム維持における役割を研究し、(1)ポリメラーゼεによるDNA損傷部位でのフォーク逆転が染色体断裂の防止に必須であり、BRCA1変異細胞において生存に必須の役割を果たすこと、(2)ポリメラーゼεは抗がん剤としての利用が期待されるヌクレオシドアナログのゲノムからの除去に貢献し、ヌクレオシドアナログの白血病の治療効果の決定因子となること、の2点を明らかにしてきた。これらの収穫期に達した知見を治療応用するため、様々なガン細胞での効果を検証し、新規の患者のガン組織ゲノム情報に応じたテーラーメイド型の新しい治療方の考案へとつなげる。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標3[保健]、目標9[インフラ、産業、イノベーション]
CO₂の直接大気回収DACに向けた研究
都市環境科学研究科環境応用化学域 准教授 山登 正文
- 概要
CO2排出実質ゼロの実現には、CO2の排出削減だけでなく大気中のCO2濃度を減少させる技術が不可欠であり、世界各国で「大気からのCO2直接回収(Direct Air Capture:DAC)」装置の開発が進められている。しかし、それらのDAC装置は回収したCO2の取り出しや吸着剤の再生に多くの熱エネルギー(=CO2排出)を要する「化学吸着方式」のため総CO2回収効率が低い。そのため、省エネルギー型の「分離膜型DAC装置」の開発が必要となる。しかし、 大気レベル(400ppm)の低濃度CO2回収に必要なCO2透過膜材料は現状存在しない。
本プロジェクト関係者は表面にナノ空間を有するシリカ粒子を微細孔高分子膜中に高濃度で均一分散することで中〜高濃度CO2分離に適用可能な「超高CO2透過膜」の開発に成功している。本プロジェクトでは、この膜のCO2透過性向上とシステム稼働条件の最適化により、大気CO2を100倍以上濃縮可能な「分離膜型DAC装置」のプロトタイプを開発する。プロジェクト終了後には企業と連携し、 オフィスや大型商業施設に設置可能な都市型DACシステムや太陽電池パネルと同様に家庭でも利用可能な普及型DACシステムの開発に繋げる。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標13[気候変動]、目標7[エネルギー]
超低周波音観測を用いた津波及び海面上昇の早期検知網の実装
システムデザイン研究科電子情報システム工学域 准教授 大久保 寛
- 概要
我が国は、多くの地震・津波が発生する地域であり、特に海溝型の巨大地震による津波発生時には、発生した津波の規模や到達時間をいかに早く都民・国民に知らせることができるかは非常に重要な課題である。また、最近では、海底火山噴火による海面上昇も報告されている。
噴火や巨大津波の際に同時に発生する気圧変化は、超低周波音波(微気圧波)となって伝搬することが知られている。本プロジェクト関係者の研究グループでは、これまで継続的に超低周波音のフィールド観測を実施しており、過去の津波や噴火において、超低周波音の観測に成功している。
そこで、本研究では、遠くない将来に起こり得る大規模津波(海面上昇)災害に備え、特に東京都沿岸部・島しょ部の津波や海面上昇による被害を低減するため、超低周波音監視による実用的な早期検知技術を提案し、世界に先駆けた強靭な防災システムを検討する。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標11[持続可能な都市]、目標9[インフラ、産業、イノベーション]、目標13[気候変動]
⾰新的プログラム医療機器(SaMD)による⻑寿健康社会の実現関節外科⼿術・リハビリテーションの⽀援技術
システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 藤江 裕道
- 概要
超⾼齢社会に突⼊した我が国にとって、より幸福度の⾼い⻑寿社会を実現するには、医療課題の解決がきわめて重要である。医療課題は SDGs の⼀課題(保健)であるが、社会活動が⼈の営みによって⾏われる以上、SDGs のすべての課題を⽀える重要課題と⾔っていい。その中で、下肢関節の疾患・損傷は症例数が膨⼤であり、QOL の低下や治療の⻑期化が著しいため、最も深刻な医療課題とされている。本研究では、①下肢関節の⼒学機能を評価するシステムの開発と、②⼈⼯関節⼿術や靭帯再建術の最適⼿法を患者ごとに術前解析し、執⼑医に教⽰するプログラム医療機器(SaMD)の開発を⾏う。また、③⾼齢者や⼿術施⾏患者の下肢機能訓練に①と②の技術を応⽤する新規リハビリテーション技術の構築 も⾏う。本学医⼯連携研究センター(代表:藤江)と共同研究実績がある都⽴多摩総合医療センターやピッツバーグ⼤学をはじめ、国内外の医療系研究機関とともに研究を展開する。複数学部・機関からの研究参加により医⼯学上の創発的イノベーションを創成し、⻑寿社会、持続可能社会の実現に貢献する。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標 3[保健]、目標 10[不平等]、目標 17[実施手段]
フレキシブル太陽電池の健全性確保による脱炭素化・減災の推進
システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 若山 修一
- 概要
フレキシブル太陽電池は柔軟・軽量であり、道路の防音壁などの曲面にも架台無しで簡便・安価に設置できるため、我が国、特に大都市部のような広大な平地の乏しい地域でも太陽光発電設備を建設可能である。また、地域ごとに分散電源を確保することで送電網を削減でき、さらに大規模災害時の広域停電を抑止できるため、減災にも決め手となりうる。しかしながら、柔軟であるがゆえ、外部負荷による損傷で発電機能が劣化することが課題である。これまで、単調引張試験を行い、損傷発生から放出される弾性波を利用(AE 法)してミクロ損傷を検出し、損傷による短絡に伴う発熱を赤外線カメラで検出(LT 法)して損傷による劣化メカニズムを解析してきた。本研究では、設置面の昼夜の温度差による熱膨張/収縮などを考慮した繰返し負荷試験、非常用テントなどの柔らかい素材に貼付した際に生じる折り曲げ・ねじり変形試験に新たに取り組み、フレキシブル太陽電池の長期健全性を確保する技術の開発を通して、堅固な太陽光分散電源システムの構築を推進することを目的とする。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標 7[エネルギー]、目標 11[持続可能な都市]、目標 13[気候変動]
振動誘起循環流による未来創生 海洋発電と臓器再生と食料培養
システムデザイン研究科機械システム工学域 准教授 小原 弘道
- 概要
振動現象をたくみに利用して循環する流れを形成することが可能な振動誘起循環流(Vibration Induced Circulation Flow:VIC Flow)は海洋発電と臓器再生と食料培養への貢献可能な未来の技術である。例えば波や海流や潮流によって揺れる昆布のように海洋エネルギーによる振動から安定利用可能な管路内の循環流を誘起することで魚にやさしく効率的な発電が可能である。離島をはじめ海に囲まれる日本、アジアにとって重要な安定した自然エネルギーであり、自然や漁業などの地域産業と親和性の高い技術である。また、 この技術は新しい医療のための臓器再生や細胞培養から食料を生産する技術を効率的に実現可能とする。 しかしながら、ソフトでウェットな新しい機械工学による発見である振動誘起循環流に関する研究はまさに始まったばかりであり、基礎研究のみならず、社会とともに歩む技術とするために応用研究も必要不可欠である。本研究では、原理検証をはじめとする基礎研究だけでなく。3 つの具体的なターゲットを持つ応用研究を推進することで未来をつくる VIC Flow 技術を社会とともに広げていくことを目標としている。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標 7[エネルギー]、目標 14[海洋資源]、目標 9[インフラ、産業、イノベーション]
細胞共培養血管モデルの開発と血管障害予防法の探索
システムデザイン研究科機械システム工学域 准教授 坂元 尚哉
- 概要
全身に張り巡らされている血管は、血流に由来する力学環境下において、正常な機能を維持している。一方で、老化や認知症、感染症において血管機能の異常が認められており、薬物乱用による障害の発生も報告されている。このような疾患や薬物等による血管障害の発生予防・治療する医療技術および医薬品の開発において、健常な状態から障害へ至るプロセスの詳細な解明は不可欠であるものの、その遷移過程をヒトを対象として調べることは極めて困難である。本研究では、異なる種類の細胞を共培養し細胞生物学的および血流力学的環境を体外で再現する独自技術を用い、脳細胞など周囲細胞と血管壁構成細胞とを共培養した脳血管モデルおよび動脈モデルを開発し、老化や認知症、感染症における血管障害病態の再現、さらに薬理作用と血流力学作用を組み合わせた障害発生予防や進行抑制方法の探索を行う。本研究成果により確立される血管モデルおよび得られる知見は、医療技術および医薬品の開発を通して、幅広い年齢層の健康維持に大きく寄与し、健康寿命を伸ばすことによる社会経済成長にも大きく貢献する。 - 本研究が貢献するSDGsにおける17のゴール
目標3[保健]、目標8[経済成長と雇用]
ユニバーサルなESG情報開示内容の検証と企業における活用
経営学研究科経営学専攻 教授 松田 千恵子、教授 浅野 敬志、特任教授 北川 哲雄
- 概要
環境・社会・ガバナンスに対する問題意識がグローバルに高まる中、組織形態や組織の規模にかかわらず、ESGに対する配慮や積極的な行動が要請される時代へと変化している。ESGに対する行動は、自治体、企業、組織の規模にかかわらず、重要な経営戦略の一つでもある中、東京が世界の金融センターに伍していくために必要な取組みを提言する。具体的には、ESGに関するステークホルダーの動向調査等を通じて、ESGへの取組及び情報開示に向けた企業の課題抽出とその解決に向けた施策の提言、ESG人材の育成と教育・普及に関する提言などを行う。
グリーンボンドのインパクト評価の検証
経営学研究科経営学専攻 教授 松田 千恵子、教授 浅野 敬志、特任教授 北川 哲雄
- 概要
ESG投資の隆盛に伴い、その代表的な手法の一つであるグリーンボンドの発行・流通も大きく広がりを見せているが、グリーンボンドにより集められた資金が、当初目論んだ資金使途に向けて適正に使用され、かつ期待した環境への影響を挙げ得ているのかというモニタリングの実績は未だ乏しい。また、異なるボンド間における環境への影響の比較なども殆ど行われていない。そこで、東京都はグリーンボンドをケーススタディとして採り上げ、発行時及び実際の資金使途等の検証や環境に与える影響の定量化等を行うなど、投資効果の見える化を通じて、グリーン投資の活性化につなげる。
隅田川の沿岸整備による訪問者や周辺居住者への効果に関する定量的分析
都市環境科学研究科都市政策科学域 教授 伊藤史子、教授 朝日ちさと、教授 杉原陽子、助教 益邑明伸
- 概要
隅田川の河川整備では水辺の利活用を促進するため、水辺空間の魅力向上、水辺と町の連続性・回遊性の向上、賑わい創出のための持続可能なしくみの取り組みが進められ、隅田川テラス整備、かわてらすによる水辺店舗の活用などの成果がある。
これらの成果は、人の流れの変化や河辺への人の滞留を誘引するとともに、周辺住民の川への親しみや河川整備への理解、日常での活用を促している。この成果を定量的に把握し、今後の整備への示唆を得るため、1:隅田川テラスの事業による人の流れの変化、2:隅田川テラスの事業への周辺住民の意識と評価、3:隅田川テラスの事業による身体活動増進効果、4:かわてらすの経済効果の、4つの小課題を設定し、相互に関連させながら調査分析を進める研究とする。
東京都の自殺対策に向けた研究
人間健康科学研究科作業療法科学域 教授 塩路 理恵子、教授 谷村 厚子、准教授 藺牟田 洋美、看護科学域 教授 山下 真裕子
- 概要
まず初年度に都内の自殺者数の動向等のデータの調査、都の自殺防止施策の調査等、基礎的なデータ収集及び分析を行う。それらの分析に基づき、都と調整のうえ、調査対象、手法を絞り込む。都の自殺施策の効果の分析の一つとして、実際に取り組んでいる人たちが抱える課題、ニーズを調査していく。現時点で対象として想定されるのは、事業の委託先、NPO等のスタッフ、精神保健担当者を含めた行政職員、ゲートキーパーなどであるが、都との調整の上で調査対象を絞り込んでいく。2年次以降、調査対象に対するアンケート調査、集計、統計的分析を行う。具体的には、アンケート対象者の中から個別インタビューまたはフォーカスグループインタビューへの参加意思のあった対象に対して、インタビュー調査を実施し、質的分析を行っていく。支援者が現状の自殺防止対策の実施の上で直面している困難を明らかにし、対策に必要な点を可視化することを目指す。
水道施設における未利用熱エネルギー回収に向けた高性能熱電変換モジュールの提案
理学研究科物理学専攻 助教 山下愛智
- 概要
既存のモジュールを凌駕する高性能な熱電変換モジュール作製を実施し、太陽光発電とのハイブリッド化によって未利用熱エネルギー回収を行う。太陽光照射による発熱は電気エネルギーとしての有効活用がされておらず、太陽光発電時の効率が低下してしまう原因にもなる。そこで、この未利用の熱エネルギーを熱電変換モジュールも用いることで、電気エネルギーに直接変換し、回収することを提案する。特に本研究では、既存の熱電変換材料の性能を凌駕する高性能な熱電変換モジュール作製と実装試験を提案する。
熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換できることから、省エネルギー技術として注目されている。熱電変換性能の大幅な増大に向けて、申請者は近年注目されている「ハイエントロピー合金」の概念を取り入れた高性能な熱電変換材料の開発を推進してきている。非常に高い熱電特性を示すハイエントロピー(HE)型GeTeの複数サイト置換型によるさらなる高性能化を実現することで、既存の熱電材料を凌駕する高性能なモジュール化が期待できる。また、HE型熱電材料においては、耐酸性や耐熱性などの機械的な特性向上の可能性もある。そのため、本研究で扱う材料でも高い耐久性を示す可能性があり、温度差が激しい劣悪な環境でも使えるモジュールとなり得る。また、バルクから薄膜まで多様な形態を作製できるため、今後導入される太陽光発電パネルに取り付けるなど、最小限の改造を加えることで実装できる可能性がある。太陽光発電と熱電変換モジュールとのハイブリッド化により、太陽光発電における未利用の熱エネルギーの回収に貢献する。また、温度・湿度センサー等の独立電源としての活用や太陽光パネルの冷却による発電量向上に向けた電源としての利用も検討する。
外国人コミュニティの発掘と安全安心に関する意識調査
国際センター 教授 岡村郁子
- 概要
1.各自治体に外国人の集住地区についてアンケートを取る
・東京都の自治体(島しょ部以外)53区市町村を対象とし、人口のうちに占める外国人の割合が一定以上の地域と、その国籍内訳についての聞き取り項目を設定し、回答を収集する。
(アンケート実施の際には、東京都より調査協力依頼文を発行)
・アンケートへの協力が得られない自治体については、公開されているデータとインターネット上の調査より、情報を得る。
2.アンケートを元に、各自治体における集住地区を割り出す
・研究者と調査会社で協議の下、一定の水準を満たす集住地域を抽出する
・期間内に聞き取り調査が可能な地区を選定する。
3.集住地区の要因調査
インターネット調査のほか、役所・地域団体への聞き取り調査、現地調査を実施。
共生社会実現に向けた支え合いに関わる意識調査
人間健康科学研究科作業療法科学域 准教授 宮本礼子
- 概要
東京都では、外見からはわかりにくいものの援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるようヘルプマークの普及に力を入れてきた。
一方で、ヘルプマークを持つ方々の側から困った際に助けを求めづらい状況があるといった声や、一般の方々も手を差し伸べづらい場面があるといった課題が生じている。
今回の事業においては、こうした課題をエビデンスに基づいて把握し、具体的な解決策につなげるため、1:ヘルプマークを持つ方々が感じている課題に関する調査・分析、2:一般の方々が援助や配慮を必要としている方に手を差し伸べやすい環境づくりを行うにあたっての課題の調査・分析、3:1,2を踏まえたうえでの実証実験の実施と結果の分析の、3つの小課題を設定し、具体的な解決策の提案につながる事業を実施していく。
感染症罹患を検知するシステムの開発及び適切な運用に関する研究
システムデザイン研究科 電子情報システム工学域 教授 松井岳巳
- 概要
人は、感染症に罹患すると、バイタルサイン(呼吸数、心拍数、体温)が上昇する。しかし、発熱の症状を呈さない罹患者や、発熱しているものの、解熱剤等で平熱となる罹患者もいる。これまでの研究において、上述のバイタルサインを基に、感染症罹患の有無を判別するハンディタイプ感染症スクリーニングシステムを開発してきた(図1)。システムに3種類のカメラを搭載し、やや離れたところから10秒程度、システムをかざすという完全非接触での計測を可能としてきた。当該システムを用い、COVID-19流行期のウランバートルの第一中央病院において臨床応用を行い、平熱のコロナ患者約150名、健常者約150名のスクリーニングに成功している (Front Physiol. 2022)。
本研究では、ハンディタイプのシステムを用い、日本国内での臨床応用、および発展的研究を行う。臨床応用では都立多摩南部地域病院への来院者の入館に対し、罹患者のスクリーニングを行うと共に、救急外来等おける診察に用いる。診察前の状態把握として計測し、診断の手掛かりの一つとする。
発展的研究としては、解熱剤服用の影響を受けにくい呼吸数を中心に、当研究グループが開発した、サーモグラフィーを用いる脳前頭全野深部体温計測法(Asai M, Inasawa A, Matsui T. Therm. Sci. Eng. Prog. 2023 37(1), 101595.)により求めた深部体温、顔表面の輝度変化から得られる心拍数を併用し、高精度なシステム開発を試みる。